そこで天照大御神は不思議に思って、天の石屋戸を細めに開けて、戸の内から、「私がここにこもっているので、天の世界は自然と暗く、また葦原中国もすべて暗いだろうと思うのに、なぜ天宇受売は舞楽をし、八百万の神はみな笑っているのだろう」と言った。すると天宇受売は、「あなた様にもまさる高貴な神がいらっしゃるから、喜び笑って歌舞をしているのです」と言った。そう言う間に、天児屋命と布刀玉命が、その鏡を差し出して、天照大御神に見せると、天照大御神はいよいよ不思議に思って、少しずつ戸から出て鏡を覗き込む時に、戸の脇に隠れて立っていた天手力男神が、その手を取って外へ引っ張り出した。すぐに布刀玉命が、注連縄を天照大御神の後ろに引き渡して、「ここより内へはお戻りになることはできません」と言った。こうして天照大御神が出てきた時に、高天原も葦原中国も自然と照り明るくなった。
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《言葉》
- 【注連縄】しめなわ 立ち入り禁止の領域を示す、「しめ」は「占め」(占有)の意