二神はすでに国を生み終え、さらに神々を生んだ。そうして生んだ神の名は、大事忍男おおことおしおの神。次に石土毘古いわつちびこの神を生み、次に石巣比売いわすひめの神を生み、次に大戸日別おおとびわけの神を生み、次に天之吹上男あめのふきおの神を生み、次に大屋毘古おおやびこの神を生み、次に風木津別之忍男かざもつわけのおしおの神を生み、次にわたの神、名は大綿津見おおわたつみの神を生み、次に水戸みなとの神、名は速秋津日子はやあきづひこの神、次にいも速秋津比売はやあきづひめの神を生んだ。大事忍男神から秋津比売神まで合わせて十はしらの神である。  

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前の段までで、イザナギ・イザナミの二神は、淡路島にはじまり、両児島までの十四柱もの島々を生みました。国土を生むのはこれでひと段落し、次はその国土を彩るさまざまな要素をつかさどる神々を生んでいきます。

大事忍男神

大事忍男神は、おほことおしをの神、と読みます。「大事」というのは、大事業のことで、すでに終わった十四柱の国(島)生みを指すとも、これからなされる神生みのことを指すとも考えられます。「忍男」というのは、「おほし(大、多)男」で美称です。

石土毘古神

石土毘古神は、いはつちびこの神、と読みます。岩石や土の神だと考えられます。「毘古」は「びこ」で、「ひこ」と同じです。分注に「石」を「いは」と訓め、とあるのは、これは「いし」とも訓めるからです。

石巣比売神

石巣比売神は、いはすひめの神、と読みます。岩石や砂の神だと考えられます。「巣」(す)は「沙」(す)で、砂の意味です。磐(いわ)のように堅固な住居(巣)、とする説もあります。

大戸日別神

大戸日別神は、おほとひわけの神、と読みます。名義は未詳ですが、戸の神であるか、戸を処(と)と取り、住居の神であるとする説があります。「ひ」は「ひこ」「ひめ」の「ひ」と同じで、神霊・超自然的な霊力を表します。

天之吹男神

天之吹男神は、あめのふきをの神、と読みます。名義は未詳ですが、屋根を葺くことか、風の神の一種という説があります。

大屋毘古神

大屋毘古神は、おほやびこの神、と読みます。家屋に関係のある神と考えられますが、のちにオオナムヂが八十神から逃れて木国(きのくに)の大屋毘古神を頼るという話が出てくることから、木の神とみる説もあります。

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風木津別之忍男神

風木津別之忍男神は、かざもつわけのおしをの神、と読みます。この神の下にある分注「訓木以音」というのは非常に特殊で、結論を言うと、この書き方では「木」を訓読みするのか、音読みするのかはっきりしません。本居宣長は、「音」の字は「宜」(げ)の写し間違いで、「木をゲと訓読みする」(普通は「訓木云宜」となる)と取りましたが、逆に「木をモと音読みする」(普通は「木字以音」となる)ととらえ、「かざもつわけのおしをの神」と読むこともできます。ちなみに、木を「モ」と読む万葉仮名の用例は、

水伝ふ 磯の浦廻(うらみ)の 岩つつじ 木丘(モク、茂く)咲く道を また見なむかも(二・一八五)

が知られるのみのようです。どちらの読み方にしても、この神名の意味は不詳です。風や木や津(船着き場)に関係のある神なのでしょうか。

海神、大綿津見神

海神、大綿津見神は、それぞれ、わたの神おほわたつみの神、と読みます。「わた」は海、「つ」は「の」、「み」は神霊で、「わたつみ」はそのまま「海の神」という意味になります。

水戸神、速秋津日子神、妹速秋津比賣神

水戸神、速秋津日子神、妹速秋津比賣神は、水戸は「みなと」と訓み、「み」(水)+「な」(の)+「と」(門、戸口)のことで、「水の門、戸口」すなわち河口や海峡など、水が出入りする門、戸口を意味します。今で言う港という意味もありますが、もっと広く、潮流の速い瀬戸などの意味も含みます。

速秋津日子神は、はやあきづひこの神速秋津比売神は、はやあきづひめの神、と読みます。この二柱の神は、日本書紀の一書(第六)では速秋津日命の一柱にまとめてられています。
大祓祝詞に、

荒塩の塩の八百道の、八塩道の塩の八百会に坐す速開都比咩と云ふ神、持ちかか呑みてむ。 

とあります。「さまざまな潮流の出会う場所にいる速開都比咩(はやあきつひめ)が、大きな口を開けて、罪という罪を呑み込む」という意味です。「速」(はや)は勢いが盛んなさま、「秋」(あき)は「開いている」こと、「津」(づ)はそのまま「船着き場、ミナト」で、「秋津」は「開けたミナト」という意味に取れますが、大祓祝詞のこのくだりから、「あき」を(神が)「口を大きく開ける」「穢れを明かす」とする解釈も考えられます。